明治以前の日本における腰痛事情と仙骨返し──“面的身体操作”と旋回回避の知恵

腰痛──それは現代人の国民病ともいえる悩みです。
けれど、「腰痛」という概念そのものが今ほど日常的ではなかった時代が、確かに日本には存在しました。
明治以前の日本人の身体操作や知恵に目を向けてみると、そこには現代人が学ぶべき多くのヒントが見えてきます。


◆ 明治以前の腰痛事情──「腰痛」は珍しかったのか?

明治以前の日本には、現代的な「慢性腰痛」という捉え方はほとんど存在しませんでした。
古い医学書や養生書にごくまれに「腰の痛み」が記されることはあっても、
それは主に高齢者や激しい農作業によるものとして語られていました。

日常的な慢性腰痛に悩む人は、現代よりずっと少なかったと考えられます。
その背景には、生活様式や身体の使い方、特に“面的な身体操作”の知恵がありました。


◆ 「面的な身体操作」とは──日本独自の動き方

日本本土の伝統的な動き方は、「面」を意識した全身運用に特徴があります。

  • すり足、ナンバ歩き、正座、畳や草履の生活
  • 体幹をねじらず、軸を通して全身を“面”として使う
  • 局所的な捻り(旋回)や無理な力みを避ける

こうした動き方は、腰椎など特定部位への局所負担を分散し、
身体全体でバランスをとる合理的な知恵でした。


◆ 仙骨返し──骨盤から生まれる“流れ”の原理

武道や古武術では、「仙骨返し」という身体操作が重要視されてきました。

  • 仙骨を立て、骨盤を適切な位置に“返す”ことで、
     背骨全体のカーブが整い、力がスムーズに全身へ“流れる”
  • この動きは、腰を丸めたり、無理に反ったりすることなく、
     「面」として全身を使うための基盤となります。

仙骨返しは、骨盤の安定化、インナーマッスルの活性化、重心バランスの回復を促し、
局所的な力みや“詰まり”を解消してくれます。
これこそ、慢性的な腰痛を未然に防ぐ“知恵”でした。


◆ 旋回回避──「捻らない」ことで守られた腰

明治以降の生活様式・スポーツ教育で西欧型の“旋回動作”が一般化する以前、
日本人は日常動作や武道、芸能の中で体幹を捻ることを極力避けていました

  • 腰椎を“回旋”させるのではなく、仙骨を中心に「面」で受け止め、全身へ分散
  • 体幹の軸がぶれず、安定したまま動ける

この“旋回回避”の知恵が、腰椎の負担を大きく減らし、
腰痛が少なかった一因とも考えられます。


◆ 現代へのヒント──「仙骨返し」と“面”の再発見

「腰が痛い」「姿勢が崩れる」そんな悩みは、
一度、“面”で全身を使う伝統的な身体感覚と、仙骨返しの知恵に立ち返ってみることで、
思いがけないヒントが見つかるかもしれません。

腰椎を捻るのではなく、仙骨を立て、骨盤から力を面として全身に流す。
この古くて新しい身体操作を、今こそ日常やワークに取り入れてみてはいかがでしょうか。


現代的な旋回動作も否定せず、
伝統と現代、両方の良さを活かして“本質的な身体の使い方”を探求していきたい。
それが、武心脱力™の目指す身体観です。