兄弟子の言葉だけが支えとしてある

― らん°武.・武心脱力™という場の誕生に寄せて ―

合気道に人生を捧げてきた。けれど、その道は決して純粋なものばかりではなかった。
段位や肩書きは、時として実力や情熱とは無関係に与えられる。組織の論理や、師範の気分が優先される現場も見てきた。
私の兄弟子は、間違いなく実力者だった。だが、師範との折り合いが悪いというただそれだけで、昇段を許されなかった。悔しかった。自分の力で道を切り拓こうと、外の道場で四段を取得し、自らの指導の場を開いた。だが、その矢先に、彼はこの世を去った。

本当に強い人、真摯に武道を愛した人間が報われず、実力とは程遠い者が組織の論理に守られ、昇段していく現実――
私はこの理不尽を、どうしても受け入れられなかった。
私が今、独立して自分の場を持つ決断をしたのは、兄弟子の背中を見続けてきたからだ。
彼が遺してくれた最後の言葉は、今も私の支えであり、私の指針である。

「合気道の素晴らしさを伝えていってください。」

この一言の重みを、私は一生忘れない。
だからこそ、私は組織に縛られず、段位や肩書きではなく、“本当の身体のあり方”や“人としての成長”を伝えられる場所を作りたかった。

「らん°武.」「武心脱力™」は、その思いから生まれた場だ。
ここでは、誰かの気分で評価が決まることはない。
武道の本質、心と身体の自由、そして“生きることの歓び”を、真っ直ぐに伝えていく。
それが、兄弟子への最大の供養であり、私自身の道である。

武道とは、ただ技を磨くことではなく、誰かの想いを受け継ぎ、そして次の誰かへとバトンを渡していくことだと、私は信じている。