受け身という「護身」

先日、知人からこんな話を耳にした。
身内の方が入院中に、記憶障害が起きていることが発覚したという。原因を辿ると、自宅で目眩を起こして転倒し、頭を打っていたらしい。しかし、本人には「記憶障害が起きている」という自覚がない。別件で入院したことで、偶然判明したとのことだった。
これは決して他人事ではないと思う。
年齢を重ねたから起こるわけでもない。若いから安心という話でもない。人は、ほんの少しの油断や偶然で転ぶ。
だから私は、受け身という技術は護身の中でも非常に重要な分野だと思っている。
武道というと、多くの人は「相手を倒す技術」を想像する。しかし、本当に大切なのは「自分を壊さない技術」ではないだろうか。
受け身とは、単に転がる練習ではない。
転ぶことに慣れること。
転ぶことへの恐怖を減らすこと。
そして、恐怖によって身体が硬直することを防ぐための訓練でもある。
人は怖いと固まる。
固まると、衝撃を逃がせなくなる。
だから怪我をする。
逆に、力が抜けると身体は動く。
衝撃を流せる。
結果として、大きな怪我を避けやすくなる。
ここで大切なのは、「柔軟性」と「脱力」は別物だということだ。
身体が柔らかい人でも、恐怖で固まれば動けなくなる。逆に、そこまで柔らかくなくても、力を抜いて衝撃を逃がせる人は怪我をしにくい。
つまり、「硬い身体」が問題なのではなく、「抜き方がわからない」ことの方が問題な場合も多い。
高齢者の転倒事故が増えていると言われるが、これは筋力だけの問題ではないと思う。怖さによる硬直、咄嗟の時に身体を逃がせないこと、その方が大きい場合もある。
だからこそ、受け身は若いうちから身につけておいた方がいい。
転ばないように生きることはできない。
しかし、転んだ時に壊れにくい身体を育てることはできる。
受け身とは、ただの武道技術ではない。
「怖がらなくても大丈夫」という感覚を身体に覚えさせる、非常に現代的な護身なのだと思う。


